ぷか
彼は煙草を吸う
それでも
わたしと居るようになってからだいぶ減ったほうだとは思う
去年の夏はぼろぼろでわたしは初めて煙草を吸った
彼がくれたWinstonとハイライト
パッケージが白くて可愛かったから なんて適当な理由を付けてWinstonを吸った
酷く苦くて不味くてむせたし 恥ずかしい話、前髪も少し焦がした
後から聞いた話 Winstonのソレは初心者が吸うもんじゃなかったらしい
先に教えてくれよ って言葉が喉まで出かかった
わたしが焦がした前髪を切っている頃
あの人はラッキーストライク一箱をご飯代わりにしていた
私は煙草が吸えない
それでもたまにバイト先のギャルがくれるCAMELとか あとは銘柄は忘れたけど変な煙草は吸う
吸い慣れてないし一本が限界だけど
ケムリがモクモクしている様は綺麗だと思う
幼い時から工場の煙突が好きだったそれと 同じ感覚なんだろうか
小学生の頃 訳もわからず出禁にされた叔父の部屋を思い出す
染み付いた煙草の匂いが わたしはやけに好きだった
今となっては 喘息持ちの幼いわたしを心配した母なりの決断に頷けるが
それでもなんだか悲しくて
その出来事以来 煙草が大嫌いになってしまった
果てた後に蒸すハイライトのメンソールは確かにあの部屋と同じ匂いがした
彼は少し嫌な顔をするけれど わたしは 彼とケムリを見つめるこの時間が何よりも好き
わたしはこれからも煙草を吸うことはきっと無いと思う
自分でコンビニへ行って 何番お願いします みたいなオーディションごっこはしないだろう
多分だけれど
それでもいつかおばあちゃんになって思い出したようにわかばを吸いたい
それかキャバ嬢みたいな細い煙草
こんなことがわたしの 密かでささやかな夢
遅すぎた反抗期を半目で笑うように
煙草はあまり吸わないで という彼の我儘に
わたしはまた気付かないふりをしてへらへらと受け流している
ケムリが目に染みても 確かに今日は幸福だったと思う
そうやって現実に向き合わなくちゃ
回る換気扇の音と80年代ヒップホップが遠くなっていく